2016年3月23日水曜日

2016年3月13日「地下鉄サリン事件から21年の集い」テーマ:死刑についてーオウム事件を考えるー ⑤

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武井弁護士「ありがとうございます。袴田事件の話が出ましたが、袴田さんに、実はわたしも、一昨日お目にかかったんですが、やはり長期の拘禁の後遺症みたいなものが残っておられるということで、やっぱり、今(小川原弁護士が)おっしゃったことは、実感を持って感じられるとこでもあります。さて江川さん、多少江川さんのおっしゃる問題に答える形として、今出てきたと思うんですが、最初に言い足りなかったことも含めて、お願いできますか。」


江川氏:
今、小川原さんが、「無期(懲役)が終身刑化しているけれども、それは運用ですぐ変わるかもしれない」ということをおっしゃられましたけれども、でもその、無期が終身刑化するってのは、30年以上経たないと出てこれなくなったってのは、刑法改正で、有期刑の最高が30年になった、そこからなんで、それが一番最大の理由なんですね。だから、やっぱ有期刑より重いのは、無期ですから、それは法律を変えない限り、そんな簡単に運用で変わるようなものではないんじゃないかな、という風には思います。

さっき、いい落としたことで津田寿美年死刑囚の裁判なんですけども、最初の判決後に「これは控訴しないでくれ」って言った裁判員が、その後やっぱり考えが少しずつ変わってきたようで、やっぱり「控訴してほしい」というようなことを、新聞記者に言ったようなんですね。だけどその時は期限がもう、超えているということで、やはりその、十年たっても、自分の判断は変わらないというようなですね、そういう判断を、あの短い期間に裁判員に求めるっつーのは、わたしはちょっと、どうなのかなーという風に思ってます。

先ほど、終身刑には反対だという風に申し上げましたのは、さっき小川さんがおっしゃったように、終身刑化してる人がいまいるんですが、もう半世紀以上刑務所入ってる人います。そういう人どういう人かっていうとですね・・・わたしがその時見たのは、戦後間もなくの、いろんな中で、事件を起こした人で、脳梅毒かなんかで、精神状態が非常に治療を要する状況になってですね、で、医療刑務所にいると。そうなってしまうと、仮釈放もできないので、ずーっといるという形になるっていうね。
で、その人たちがどういう状況にいるかというと、わたしは・・・その、ちょっとびっくりしたんですけど、非常に手厚いケアがされていました。昼間は陽の当たるところでできるだけリハビリをして・・・とかですね、そういうのを見てるうちに、だんだんこう複雑な気持ちになってきたんですね。
例えば今、高齢者でも、なかなか介護が難しくてですね、事件まで起きるような状況ですよね、そういう中で、終身刑ってのは、その終身刑にした人を、最後までその人の人権を守りつつですよ、医療も介護も含めて、国が税金をかけてやるっていう覚悟をみんなできるのかどうかってとこだと思うんです。さっきビデオの中でAさん(妹さんがサリン被害で重篤になり介護をしている男性)が、終身刑になった場合には、刑務所なりなんなりに入ってですね、税金で全部やるけども、妹さんの場合はどうなんだ、って話がありました。
実際に、そういう風になってる人が今、刑務所に行けばたくさんみられます。
もう・・・・医療・・・あるいは介護ですね、施されてる人が、たくさんいます。そこまでちゃんと見た上で、みんな終身刑って言ってるのかなってのが一つ。

それからもう一つは、わたしは、無期の人と、それから短期で出られる懲役囚を一緒にした刑務所の所長をやったことがある人から話を聞いたことがあるんですけれども、やっぱりその、無期はまだ仮釈放の希望が、わずかであってもあると。
それが、彼らを自制させているところがあるんだと、いう風に言ってました。ですから、仮釈放の希望がない人を、一緒に処遇するっていうことが刑務官としてできないという風に言ってました。例えばその人が見た場面では、短期の人がですね・・・もうすぐ出るって人が、無期の人にちょっと喧嘩になってですね、「お前なんか一生出られないんだ、俺なんかもうすぐ出るぞ」みたいなことを言って、手を出したらしいんですね。
だけど無期囚の人は、それを言われたり、殴られたりしても必死に耐えてると。それはなぜかっていうと、やり返したら、その人も懲罰になって、仮釈放が遠のくからです。
そういう風に、希望がちょっとでもあるってことが、なんとか刑務所の運営を維持させていると。それがない人たちを、我々は今と同じような状況の中で対応できない、という風に言っていました。
日頃、受刑者をですね、対応している人たちの話っていうのも、やっぱりちゃんと耳を傾けなきゃいけないんじゃないかなって思っています。
そういうこともあって、わたしは(終身刑に)反対だってことを言ったんですが、じゃあ死刑と無期の間に何もないのかっていったら、わたしはそうじゃないと思うんですね。それはわたしは、一つ考えるべきは、「執行猶予付きの死刑」という・・・これは、中国で実際に行われている制度なんですね。で、中国の刑法の、第48条ですね、死刑ということが書いてあって、まあ死刑っていうのは、非常に重い犯罪をした人に適用される、憲法ですか、ごめんなさい、憲法だと思います・・・ああ、刑法かな、ごめんなさい。

あのー、即刻死刑にしなきゃいけないというもの以外については、死刑の宣告と同時に、執行猶予2年をつけることができると。で、その2年の間の状況をみてですね、やっぱり執行するか、あるいは無期懲役や有期懲役の方へ移行するかってのを、その後また決めるっていう制度なんですね。
これは元々は、毛沢東がですね、政治犯をアメとムチでやるときにですね、導入した手法なんです。ただ今では、一般事件で随分適用されててですね、ひょっとしたら日本人でも、どっかの市議会議員が麻薬かなんかで向こうで捕まってですね、死刑が求刑されてて判決がズルズルズルズル伸びてるんですが、ひょっとして日本人で死刑の執行猶予第1号になるかもしれないそうですね。

そういう制度があって、死刑廃止で、最初の頃は、団藤(重光)さんって方がいらっしゃいましたよね。あの大物の方も、最初は興味をしめしたみたいなんですが、「なんだ毛沢東か」って、なんか嫌になっちゃったみたい(笑)で、もう全然支持されてないみたいですけども、元々はそうかもしれないけど、やっぱりその発想っていうものは、検討してもいいかなっと思うんですね。2年じゃなくても、例えば、5年間反省の態度をみて、もう一度刑を決め直すことができるとかですね、そういうものも、例えばその、時が経ってですね、関係者の気持ちが変わることもあるかもしれないって話もありましたし、さっきわたし申し上げたように、裁判員の気持ちが変わるかもしれない。

そういう時に、やっぱりもう一度見直しをする制度も考えてもいいかもしれない。あるいはもうこの人はすぐ執行しかないよねっていうのはあるかもしれないですけども、そういうような、死刑と無期の間に、執行猶予付き死刑を導入するとかですね、そういうようないろんなことを考えるっていうのは、必要かな、と思ってます。


武井弁護士「いよいよ江川さんの自説の『執行猶予付き死刑』の話まで飛び出してきて、団藤先生は実はわたしの大学一年の時に教わった先生なんですが、その流れで出てきて、もっと聞きたいんですが、残念ながら、15時半まであと15分しかありません。三人の方々にですね、五分くらいずつ、言いたいことを言っていただくということにしたいと思います。では、藤田さんからお願いします。」


藤田氏:
わたしだけその・・・小川原さんや江川さんと違って、浮いてるってのは十分承知していますが、わたしのせいもありますがやはりオウム事件ってのは非常な特異性があるっていう・・・それでそのオウム事件にこだわって発言しようとしてますので、そういうことになってるかなと。最後までそれで、いきます。

さっき話が出ました、豊田氏なんですが、豊田氏の最高裁の時にですね、弁護人さんの方が言ったことがあるんですね、それはですね、言い訳はとにかく彼はしなかったんですね。言い訳しないことについては、さっき高橋さんからもちょっとありましたけども。

だけど、その、弁護人さんは、言い訳をしない豊田の実態を知ってほしいということで、オウム真理教がもたらしたマインドコントロールに絡めてですね、死刑にしないで、きちっと実態を知ることが、恐怖の深さに、事態の深刻さに改めて直面することが可能になるんだ、ということですね、ですから、生きてる彼を直視して、彼に直面する言葉こそが、再度の悲劇を何としても防ぐことであって、極刑の回避を求める、っと言ったんですが、まあもちろん相手にされなかったんです。

もう一つは、最近、無期懲役になった杉本(繁郎)氏からもらった手紙なんですが、彼はずっと、自分はどうしてそんなこと言っちゃったんだろうってこと考え続けてるんですが、そこにあったのはですね、オウムで無自覚のうちにですね、死刑を・・・これは9ページにありますが、呪縛があったことが、逮捕後、麻原・教団から離れて、かつ情報等遮断した状態で、自分なりに考え続けたものの、21年の歳月を要した結果だ、というんですね。

やっぱりそういう時間が彼には必要だったってことだと。そうすると、オウム事件というものを、本当に教訓として我々が得ていくには、あのー・・・まあ今日おいでになってますけども、オウム真理教家族の会にが出してる「死刑執行回避を求める要請書」に書いてあることは、本当に、考え抜かれて、書かれた文章だと思っておりますので、死刑全般についていうのはちょっと差し控えますけども、オウムに関しては、これは必要だろうなあという風には考えております。以上です。

小川原弁護士:
わたしはですね、この場で発言の機会を与えていただけて、本当にありがたかったなぁという風に思っています。
やはり、こういう場で死刑賛成の人、反対の人、様々な立場で、意見交換をする、議論という必要もなくて、意見を交換し合うんだというのはすごく必要なことなんだという風に思っています。

さっき江川さんがおっしゃってた制度の問題なんですけども、重要なポイントが2つあったと思います。
一つは、コストの問題です。もう一つは処遇の問題です。終身刑を考えた時、コストが高すぎるんじゃないかという議論があります。でもこれに対しては、現在の死刑確定者の処遇ってのは、拘置所で単独処遇、刑務官がつきっきりですねほとんど。もう本当によく見守って、単独処遇で大変なんです。
これが、終身刑といった場合には、通常考えてられるのは普通の懲役囚とだいたい同じような集団の処遇になって、工場で働く機会も与えられることになるだろうと。そういう中で試算をするとですね、死刑確定者はすぐ執行してしまえと、そしたらカネがかからないだろうという、ある意味暴論を抜きにすればですね、やはり、執行までに長期間かかるんだということを前提にすれば、終身刑の方がコスト的には安くなるんだという議論もひとつあります。また、さっきちょっとお話したように、死刑確定者には国選弁護人がいません。制度としてつけることはできない。
でもこれも、アメリカだったら、「スーパーデュープロセス」死刑囚だからこそ手厚い、我々国民が、ある人を死刑にするんだと、その人の命を奪うんだと。その代わり、その相手に対しては公の費用で、弁護人からですね、鑑定する費用からいろいろ負担するんだという「スーパーデュープロセス」、日本でわたしも採用されるべきだと思うんですけども、そういう制度が採用になれば、死刑囚こそコストがかかるんです。
ですから、そういうコストの議論も、本来日本でもっともっとたくさんされるべきだし、じゃあ今どのくらいコストがかかってるのかについても情報が公開されるべきだったんだろうと思います。

それともう一つ処遇の問題です。日本では、終身刑は処遇困難だということはしょっちゅう聴かせられることです。でも、アメリカでは終身刑もやってるわけです。ヨーロッパでは、終身刑って制度は、まあ、イギリスなんかではいわゆる「タリフ」って言ったりですとか、柔らかな保安処分、といったですね、というのもあるんですけども、他の国で可能なことが、日本では「処遇困難」の一言で片付けられてしまう。なんでなんだ。
日本だけ特別な議論がされてる。
例えば、これは取り調べの現場でもそうです。
他の国だったら弁護士が立ち会って当たり前。でも日本じゃまるで考えられない。日本は特別なんです。日本の取り調べっていうのは、反省まで促すから、特別なんだとか素晴らしいんだとか、日本は独特なんだとか、議論があるんですけども、処遇に含めても、諸外国の例を参考にしながらですね、公の議論がされるべきなんだと思います。わたしは、今日この場ってのがですね、そういう公の議論につながっていく一歩になればいいなっていう風に思います。以上です。


江川氏:
今、小川原さんが「すぐに(死刑の)執行は暴論だ」という風におっしゃいましたけども、暴論じゃなくて、法律で決まってんですよね、6ヶ月って。その法律をほっといてですね、それを「けしからんけしからん」って言っててもしょうがないような気がするんです。やっぱりそういう法律面から、改正できるのかっていうことをきちっきちっとやっていかないと、やっぱりその・・・まぁ判決で、司法で決めたことは、きちっとそのー・・・行政の場で執行すると。
有期刑でも、無期刑でもですね。そういうのがやっぱり法治国家だと思うので、やっぱりその、旨一つで、死刑にしたり、それを回避したりってのは、やっぱりマズいと思うんですよね。そういう制度の問題としてどうするのかっていうのを、議論すべきかなあという風に思っています。

それとやっぱりいろんな問題の、よく真相解明っていう風にマスコミも言いますけども、司法で真相解明なんて、ハッキリ言ってムリだと思うんですね。
さっき藤田さんもおっしゃいましたけども、やっぱり、しばらく考え続けてようやくわかったってこともあるだろうと。でもそれは、その人がちゃんと考える人だったからなんですね。いくら時間をかけたってですね、全然ちゃんと考えない人もいるわけで。
そういう意味では、「こうすれば真相解明できるんだ」っていう絶対的な正解ってのはないと思うんですね。だけども、少しでも、まぁできるような形にしていくと、いう意味ではですね、やっぱりその、今、死刑囚となってる人たちの、アクセスですよね、それがまったくできないってのは、非常に問題で、例えば死刑囚の執行回避したとしてもですね、ただ中に閉じ込めておくだけでは、それこそ税金かかるだけで、なんの、ハッキリ言って役にも立たないっていうことになるわけですね。

じゃあ、自分たちがどうしてこういう風になったのかっていうのは、きちっと話せる人には話してもらうと。
わたしなんかはこれはもう、法務省の人に言ったら笑われましたけども、東京にたくさん、高校生とか修学旅行でくるんですね、で裁判所に見学にくる人もいます。わたしは東京拘置所に行ってですね、そこでオウムの人で死刑囚になったけれども、非常に反省していて、後悔している人に話を聞く会みたいなことをやったらどうかって思っているんですね。そうすると、やっぱり死を間際にした人がですね、「自分はなんで失敗したのか」ってことをいう、ってのは、非常に若い人たちに、心に残ると思うんですね。そういうことが、次のカルト事件を防ぐことにもなるんじゃないかと思うんです。

そういういわゆる死刑囚の活用ってのを、もうちょっとやったほうがいいんじゃないかと思うんですけども、ただ日本は、特に刑務官の負担が重いこともあってですね、刑務官のほうから、とにかく「心情の安定」・・・そっとしといて、なんの刺激も与えないでおいてほしいってのがすごく強くてですね、昨日か一昨日か、なんか判決が出ましたけれども、弁護士のほうから、刑場の写真か何かがちょっと出てるようなパンフレットか何かを差し入れたら、福岡の拘置所が認めなかったってことで、(死刑囚が)裁判をおこしたら、福岡地裁が「死刑囚と弁護人には、そういった資料の受け渡しは認めるべきだ」って、死刑囚側のほうが勝った判決がありました。
とにかくその、心情の安定っていう、ちょっとよくわかんない概念でですね、そういったアクセスがまったくできない、ために、藤田さんのような、ちゃんと取材して書ける人が、取材もできない、あるいはここにもテレビの方いらっしゃいますけども、そういう人たちがですね、本当に反省して、次世代のために、語ろうって人がいて、その人のことを映像で撮ってですね、それは本当にいい教材になると思うんですね。そういうことすらできないってのは、非常にもったいない話じゃないかなと、思うので、やっぱりその死刑囚に対する外部からのアクセスっていうのを、もう少しなんとかするっていうのを、死刑問題の一番最初の第一歩かなってわたしは思ってます。


武井弁護士「ありがとうございました。実は、このメンバーで打ち合わせをやったのですが、その時は大激論でですね、本番どうなっちゃうんだろうって思ってたんですけども(笑)今日はみなさん、遠慮がちにお話いただいたので、スムーズに、15時半に終われました。本当はもっとお話をいっぱい伺いたいのですが、なにしろこの難しいテーマで、しかも多種多様にわたる議論をしましたので、結論を出すというより、いろいろな問題定義を受けて、みなさんに考えていただくという趣旨ですので、ぜひまた、考えていただきたいと思います。今日は、江川さん、小川原さん、藤田さん、本当にお忙しい中ありがとうございました。」(拍手)


⑥へつづく。

この後は意見交換となります。

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