前回
安田弁護士:
松本さんは、事件を知った時の心境はどうだったのでしょうか。
松本さん:
事件の細かいところが明らかになっていく過程で、絶望と、嫌悪感と、信じられないという気持ちの混乱の中にいました。
父以外の実行犯の人は、みんな「犯行をやった」と言っていて、これはしっかり受け止めなければ、いけないんだと思いました。
ある機会に、中川さんのお母さんが、「あれだけのことをしたのだから、普通の死に方では、本人も納得できないでしょう」とおっしゃいました。自分の息子について、そんなことを言うなんて、一体どんな気持ちなんだろう・・・・と、想像した時、それまで、どこか他人事のように感じていたこの事件が・・・わたし一人の問題じゃないことだとすごく思いました。
わたしは、中川さん、みんな、兄のように思っていました・・・(泣きそうになりながら)そういう人たちが、罪を犯していた・・・・・耐えられない・・・・・耐えられないかんじですね・・・・・・・
安田弁護士:
事件と現実があまりにも違って、そのギャップが続いているんですか。
松本さん:
もしかしたら、事件を起こしてしまう人っていうのは、普通の人が、出世欲や何か絡んで、普通より、ちょっとまじめで、ちょっと世の中を変えなきゃいけないと考えるのかなって。そう考えたら、わたしも、となりの人も、いつ何をするか分からない。
人を殺すのは、想像してたよりもずっと・・・・・・紙一重なのかな、と思いました。
一人一人は、本当に、優しい人です。今でも。
でも、彼らは事件にいっちゃって、物ごとを確認する、自分の失敗を受け入れる強さとか、そういうのが必要なんだなと思いました。
安田弁護士:
親子の関係ということで、荒木さん、どうですか。あなたのご両親と、よく会うんですけども。
荒木さん:
知識と、理解、受け入れるということは、段階がありまして・・・
否定したい、ってのもありましたし・・・20年かけて、格闘してきました・・・今も、まだ、納得が得られていないです。弟子として、納得ができません。
安田弁護士:
教祖が話さないと?
荒木さん:
そうですね。
安田弁護士:
それでは、「3 オウム事件後の社会は、どう変貌したか」です。
河野さんは、監察委員もされていましたが、どうでしょうか。
河野さん:
わたしは、オウム事件後、犯罪被害者の基本的な支援体系が、出来てきたと思っています。以前は、犯罪被害者を助ける法律がありませんでした。まだ、遅れてる部分はありますけども。
有田議員:
日本は監視カメラが、全国各地に設置されています。監視カメラの台数は世界一と言われています。
これは、オウム事件以降のことだと思います。
何か特別な団体に、特別な人たちが入って事件を起こした・・・というわけではありません。信者たちは、まじめで、家族思いの人たちです。彼らが入った組織が変質したと考えるならば、わたしたちも他人事ではない。自分たちの家族や友人が、そういうものに関係せず、生活できるかが問題です。
脱会信者の支援を、保健所を拠点にして、しようとしていたことがありましたが、結局政府は何もしませんでした。アメリカの方が、支援や研究をやっていました。
政府がこのまま何もしないならば、別のこういった組織が出てくるのではないかと危惧します。
また、ネットでは、匿名で人を攻撃できることで、憎悪が増幅します。
オウム事件後から、こういう社会に発展してしまったのではないでしょうか。
安田弁護士:
以前はもう少し、自制のきいた社会だったのではないかと思います。
松本さん:
個々人は、受け入れてもいいとしても、受け入れることによって、社会から排斥されることがあります。「自分としては、正しくないけど、ごめんね」と言われることが多いです。
facebookでも、20年経っても、わたしと友達になる、付き合うだけで、付き合う人が切り捨てられるんです。それが難しいです。「あなたには問題はない。だがあなたのバックが問題で受け入れられない」と言われます。これが仕事なら、わたしも生きていけないとなります。
有田議員:
その問題に関しては、オウムの後継団体が、どこまで反省しているかということもあると思います。上祐さんは自分の手記を出しましたが、それに17年もかかった。17年は遅かった。
荒木さんに聞いてみたいんですけども、あなたは教祖から、説法中に、「グルが警視総監の首根っこを捕まえてこいと言ったら、できるか」と教祖から質問されて、「あれ、こんなこという教団って何かおかしいな」と思いませんでしたか。
また、野田成人さんの本も不満だ。「革命か戦争か」とかいうやつ。野田さん自身は、当時、車両相大臣ですか、それが重要なポストなのかはわかりませんが、事件について、ほぼ触れていない内容だからです。
全体として、事件の総括・反省をきちんとしていません。そういうわけで住人たちが感情的になることもあると思います。
安田弁護士:
人は、他人を傷つけなかったらゆるされる、という思想の自由を信じています。サマナ(出家信者)の中で、事件に関与したのは、何百人です。ほんの一部です。やらなかった人、知らなかった人には、責任を負わせてはなりません。
裁判で、「オウムを辞める」と言った人には執行猶予がつき、辞めない人にはもっと重罰があった。これは差別です。
有田議員:
自分は拉致問題もやっているのですが、国際人権基準に、日本は、人権の考え方がおかしいと言われます。これは、国際人権基準が日本政府に申告していることですが、改められません。
在日問題にもおかしい点がある。
安田弁護士:
河野さんは、「相手よりひとつ高度な見方でないと、憎しみが生まれてしまう、それは子供によくないことだ。そういう見方でないと、トラブルは解決しない。」といったことを本に書いてましたね。
河野さん:
松本サリン事件発生時、社会から排除され、犯人扱いされましたが、その時、同時にわたしの家族も、友人も、親戚も、みんな社会から排除されてしまうのです。そうすると、感情がぐしゃぐしゃになります。犯人以外は、普通の人扱いしなきゃならないのに。
行政も差別しています。オウム・アレフ信者の住民票不受理は、市長が判断していましたが、いち市町村が法判断までしてしまっている。これはおかしいですが、こうしたほうが、世間にウケるんです。
この国の人とは、みんなと同じでないと落ち着きが悪い、と言われます。
わたしは、冷静になりましょうよ、とずっと言ってきたつもりです。
そうしたら「お前はオウムの肩を持っている」と批判されたりしますが(笑)
事件での長野県警は、刑事部長一人が、加速していました。
それに対して、課長が止めてたという状況です。警察は縦社会なので。
そういう構図をみると、長野県警を恨めなくなりました。
オウム事件について、今は分からないけど、50年経ったら分かるかもしれない。
人は、喋れない時もあります。長いスパンで、何が真実かを探って、再発防止に歯止めをかけないと、と思います。
つづく
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