2015年11月13日金曜日

佐木隆三「三つの墓標」


佐木隆三氏が亡くなった。
とてもショックだった。
佐木氏のオウム幹部ひとりひとりの丁寧な描写を読んで、信者にも、それを見つめる作家にも、人間らしいものを感じることができた。オウム事件に、より興味をもつきっかけになった。
謹んでご冥福をお祈りする。

「三つの墓標」は、副題が「小説・坂本弁護士一家殺害事件」で、「小説」ならフェイクも結構入っているのかな。微妙かも、と思っていた。
しかし、佐木氏が傍聴したオウム裁判など綿密な取材に基づく内容だった。
坂本弁護士一家を殺害した実行犯6人の、ひとりひとりの入信のきっかけや経緯、心情が掘り下げられているのが興味深い。そこには憶測も含まれると思うけど、どうしてこのような事件に至ってしまったのか、とても考えさせられる内容だった。
6人それぞれの検察調書が掲載されていることも、興味深い。これは、小説ではなく本物の調書なので、6人それぞれの陳述を読み比べられる。

1989年11月4日深夜 事件当時、実行犯は以下のメンバー。()はホーリーネームと呼ばれる教団名。年齢は当時。
早川紀代秀(ティローパ大師 40歳)
新實智光(ミラレパ大師 25歳)
村井秀夫(マンジュシュリー・ミトラ大師 30歳)
岡崎一明(アングリマーラ大師 29歳)
中川智正(27歳)
端本悟(22歳)

中川さんと端本さんは、このとき入信したてで、事件後にホーリーネームを与えられることとなる。
純粋に求道をしていた若者たちが、なぜ殺人に至ったか、本書にはたくさんのヒントがあった。

殺された坂本龍彦ちゃんは、生きていたら27歳になる。今のわたしと同世代だ。
事件発生当時から6年間、失踪事件として扱われていたため、一家3人はどこかで生きていると信じられて、度々報道されていた。その6年間の記憶は、わたしの中になんとなくあり、今もこの事件について聞くと、暗く、重たい、恐怖のようなものを感じる。
死刑囚の支援をはじめた今でも、考え続けていきたい。