2016年2月1日月曜日

Iくんのこと

わたしの実家がある場所は、わたしが住んでた頃、畑や森、竹林が広がる片田舎だった。
そこへ、戦後、某大企業に就職してそこそこ成功した祖父が、二世帯住宅を建てた。増築を加え、周囲では目を引く奇妙な形の家になった。でもそれは今感じることで、子供の頃はそれが普通だった。
家は高台にあって、そこから坂を下って10分くらい歩いたところに、トタンを使ったような長屋の家が乱立しているエリアがあった。
わたしは、そこに住む同級生が好きになった。名前を仮にIくんとする。
Iくんはイケメンで、クラスでも人気者だったように記憶している。小学生のときなので、恋とも呼べないかもしれない、ただ顔と体型がかっこよくて、目立つから好きだった。
一方わたしはというと、オタクでコミュ障で、体が悪くて、友達も少なくて、親からよく殴られたりしていたので、当時はそれとは知らず、それなりに人生に絶望していたと思う。Iくんに光を見ていたのかもしれない。ちなみに、Iくんから見たわたしは、ただのクラスメイトだったと思う。

勇気を出して、バレンタインのチョコレートを、家に渡しに行ったことがある。
長屋のエリアに初めて足を踏み入れた。トタンが青くて、錆びている家が、何棟か並んでいる。寒々しい。通りかかった家では、誰かがシャワーを浴びているのが外に分かった。
どの家も雑然としているので、表札が分からなくて、どこがIくんの家か分からない。うろうろしていたら、おじさんが居るのに気づいた。色黒で、帽子をかぶっていて、目がキラキラしている。
「○さん(Iくんの苗字)のお宅はどこですか。」
「それならうちだよ、Iになにか用?」
おじさんはにこにこしている。
わたしは驚いた。教室のIくんはいつも輝いている。
寒々しい雰囲気の家、おじさんの綺麗とはいえない風貌と、わたしの知るIくんはあまりに対照的だった。
と思う。
子供の頃は、まだよく分かっていなかった。
違和感なのか…自分が何が分からないのか分からない。
でもなんだかここにいてはいけないような気がして「何でもないです」と言って帰ってしまった。

学校では、人はみんな平等だと教えられた。
人をいじめたり、差別してはいけないと教わったので、そういうものだと確信していた。
しかし、実際、人は産まれながらに全然平等じゃないし、差別も人権侵害も存在する。

Iくんはかっこよくて輝いていた。今思えば、あのおじさんに大切にされていたんだなあと思う。
Iくんはその後、中学生になってから疎遠になって、高校には通わず、ホストになったらしいと風の噂で聞いた。どこかのNo.1ホストらしい。イケメンで人気者だったIくんならうなづける。ただ、金髪のつんつん頭になった写真を見て、そんなことしなくても十分かっこいいのになと思った。
でもホスト業界は厳しい。わたしの知人も借金で大変なことになった。アラサーになって生き残るのは至難の技だと思う。

Iくんの家があった長屋群は、いつのまにか取り壊されて綺麗な家が建ち並んだ。今どうしているのか分からない。お金持ちになったり、マグロ漁船に乗ったり、ヤクザになったり、死んでたり、資格をとったり、妻や子供がいたり、幸せな家庭を作ってるかもしれない。

最近ふと思い出したことです。

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